石川県の「湯涌ぼんぼり祭り」ってアニメの祭りを現実に開催したものって知ってた?


 夜の街をぼんぼりを持った人たちの行列が練り歩く、湯涌温泉(石川県金沢市)の「湯涌ぼんぼり祭り」。アニメに登場する架空のお祭りを現実にしたこのお祭りが、今年(2022年)で10回目を迎えました。“土地のお祭り”として定着しつつあるお祭りはなぜ継続できたのか、取材しました。

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 「湯涌ぼんぼり祭り」は、温泉街である湯涌町をモデルに作られたアニメ「花咲くいろは」(2011年放送)に登場する「ぼんぼり祭り」をもとにしたお祭り。「湯涌ぼんぼりまつり」は2011年9月の「花咲くいろは」放送終了後、同年10月から10回にわたって開催されています。2022年10月の開催後、「民俗コスプレの枠を超え、本物の習俗になりつつある」と紹介する来場者の投稿がTwitterで話題になりました。

 華やかなイメージの金沢の市街地とは異なり、9軒の温泉宿からなる静かな温泉街、湯涌町。“金沢の奥座敷”とも呼ばれるこの街で、アニメ発のお祭りがどのように誕生し、継続されていったのか。湯涌温泉観光協会 湯涌ぼんぼりまつり実行委員会の委員長を務める山下新一郎さんに尋ねました。

●アニメの祭りが現実になったきっかけ

 アニメーション制作会社「P.A.WORKS(ピーエーワークス)」(富山県南砺市)から、湯涌温泉観光協会に「花咲くいろは」の舞台のモデルを湯涌町にしたいという話があったのは2009年。湯涌町では侃侃諤諤(かんかんがくがく)の議論になったといいます。

 「そもそもの湯涌温泉とアニメーションのファンの方、俗にいう『オタク』の人たちとのミスマッチというのをみなさん非常に危惧されて。当時の湯涌温泉のお客様は地元の方がほとんどだったんですね。割合で言うと7対3くらいで地元の方が多かったんです」(山下さん)

 当時はアニメのいわゆる“聖地巡礼”(作品の舞台やモデルになった場所への訪問)も今ほど一般的ではなく、新海誠監督による「君の名は。」(2016年)が話題になるのはまだ先のこと。アニメが好きな、俗に言う「オタク」に対するイメージは、マスコミの偏った報道もあり良くなかったそうです。

 地元の常連のお客さんに支えられている落ち着いた温泉地ゆえに、アニメの舞台に設定されることについて慎重だった湯涌温泉観光協会。「花咲くいろは」の製作委員会は何度も現地に足を運びアニメについて説明します。そこに登場したのが「ぼんぼりまつり」でした。

 「いろいろご説明をいただいたんですけど、『ぼんぼり祭り』という単語が出てきたんですね。後日、雑談の中だったと思うんですけども、『ぼんぼり祭り』ってどんな話ですか、って聞いたら、稲荷神社の小さな女の子の神様が10月の神無月、出雲に帰るときに道に迷わないようにぼんぼりの灯りで道筋を照らしてあげて、そのかわり神さまは皆さんが書いた『のぞみ札』の望みを出雲に持って帰り、八百万の神とともにかなえるっていうストーリーなんです、と。お聞きしたときにすごくすてきなお祭りだなぁと思って」(山下さん)

 祭りの設定やストーリーが気に入ったのに加え、湯涌温泉にはホタルが飛ぶ6・7月を除いて夜のイベントが少なく、夜のにぎわい創出のため、そして2008年に湯涌町に大きな被害を出した浅野川水害の復興3周年という思いも込めて、湯涌温泉観光協会は製作委員会に「湯涌ぼんぼりまつり」の開催を提案しました。

●「オタクの人がいっぱい来るかもしれない」初めは不安がる人も

 「ぼんぼり祭り」のシンボルとも言えるぼんぼりには、地元の湯涌小学校、芝原中学校の子どもたちが絵を描き、行列にも小学生たちが任意で参加しています。神様や神さまと一緒に歩くお稚児さんの役も小学生です。飲食ブースでは地元の人が、地元の食材を使った食事を提供しています。

 さらに、350基のぼんぼりが飾られる湯涌稲荷神社の扇階段ではライブイベントが開催され、金沢の市街地からも高校生によるブラスバンドやアカペラグループなどが出演。演目には必ず「花咲くいろは」の曲を1曲以上入れてもらうとのことです。湯涌町に留まらず、周辺地域に住む人も一緒に盛り上げる「湯涌ぼんぼりまつり」ですが、始まった当初はどう受け止められたのでしょう。

 「『湯涌ぼんぼりまつり』の開催が決まったのは2011年の4月ごろ、アニメがオンエアされたか、されてないかくらいで、アニメを見たファンの方がいらっしゃる前でした。『オタクの人がいっぱい来るかもしれない』と不安がる人は少なくなく、協力を取り付けるのは大変でした。特に飲食のブースの出店は、なかなか集まりませんでした」(山下さん)

 ところが、「花咲くいろは」を見て温泉に来るお客さんが増えると、マナーの良さから「オタク」に対する好感度が一転。

 「地元の人とコミュニケーションを取っている姿は好印象で、暗くて挨拶をしない想像の『オタク』ではないということが分かってきました。リピートするお客さんもいて湯涌の人たちと人間関係ができ、オタクに対する色眼鏡の色が抜けて、地域の人もだんだん祭りに協力的になってきました」と山下さんは語ります。

 さらに、アニメを見て来たと思われる若い男性のお客さんは街歩きをするので、温泉街ににぎわいが出るというメリットもあったそうです。

 「とはいえ、祭りを始めて年を重ねることで協力者が増えていった、という感覚です。祭りの後日に大掃除をすることにしていたのですが、ゴミ1つ落ちていない。他の人が出したゴミまで拾う来場者までいました」(山下さん)

 アニメファンの温泉客としての、さらに祭りの参加者としてのマナーの良さが知れ渡っていくうちに、地元の人たちも「湯涌ぼんぼりまつり」に積極的に関わろうという気持ちになったのでしょう。

 「来場者の中には、祭りが始まる前にSNSで呼びかけて集まり、湯涌稲荷神社を掃除してくれた人までいました。自分たちが大切にしているものを大切にしてくれると、地元の人は喜んでいました」

●あくまで“地元のお祭り”として開催

 第1回となる「湯涌ぼんぼり祭り」の来場者は公称5000人。しかし、山下さんは1万人くらいではないかと感じたと言います。

 「金沢駅からシャトルバスが出るのですが、朝7時に金沢駅から『祭りに行く人の行列で駅がすごいことになっている。何とかしてほしい』と連絡が来て、北陸鉄道にシャトルバスの時間を早めて(増便して)もらいました」

 あまりにも人が多く、携帯電話の回線がパンクしたため、主催者同士が街の中を走って人海戦術で連絡。湯涌の温泉街は小さく、う回路もないので、大勢の人にお祭りを見てもらえるのか、行列は可能なのか、山下さんは不安だったそうですが、なんとか無事終了。その後、来場者数は増え続け、第6回の2016年には1万5000人に達しました。

 2020年、2021年は新型コロナウイルス感染拡大防止のため、お祭りは中止となりましたが、今年は3年ぶりの開催で第10回を迎えました。長く続けるために大切にしたのは、「アニメのイベントではなく、あくまで地元のお祭りとして開催すること」だといいます。

 「お祭りの行列では、地元のおじさんや子どもが歩くのですが、どうしても見た目が地味になってしまう。製作委員会がアニメに出演した声優さんにも行列に出てもらおうかと声をかけてくれたのですが、地元の人だけでやることにしました」(山下さん)

 見に来た人に喜んでもらえるかどうか不安だった山下さん。しかし、意外にも地元の方だけの行列は好評でした。

 「アニメが好きで祭りに来た方も『そこがよかった』とおっしゃっていました。『声優さんが(行列に)出るとイベント寄りになってしまう。そうしないほうが地元の祭だということが目立つ』と」

 来場者に楽しんでもらうのはもちろんだけれども、湯涌町で脈々と続いていくお祭り、湯涌稲荷神社の神様のお祭りとしての開催という点を重視する。イベント化により、お祭りの軸の部分がズレないよう運営しているとのこと。イベント化すると短期的には盛り上がるけど、一過性で終わってしまうと考えているそうです。

●地元の人による祭りゆえの苦労、ファンがサポーターに

 「祭りには誰が出るのか、神さまの役をするのは誰なのか、どんな演出をするのか」など、開催にあたり考えなければならないことは多く、お祭りが始まった当初、山下さんは旅館での仕事を終えて22時に南砺市のピーエーワークスに行き、打ち合わせをしていました。

 山下さん以外も、みんな温泉旅館などの仕事もしつつ、多忙な中でお祭りの運営に携わるというハードな状況。しかし、「湯涌ぼんぼりまつり」の第3回以降、心強い助っ人が現れます。

 「何回も来てくれて人間関係ができたファンの方に声をかけ、『湯涌サポーターズ』としてボランティアで祭りに協力してもらうことができています。10月の湯涌ぼんぼりまつりだけでなく、7月の『氷室開き』にも来てくれるようになりました」(山下さん)

●今後、どう続けていくか

 「湯涌ぼんぼりまつり」が第10回を迎えたことについて、山下さんはこう語ります。「『何とか第10回を終えることができたな』というのが正直なところ。10回は続けたいと思っていましたが、続くかどうかは疑問でした」

 2020年、2021年の中止を経て、お祭りは3年ぶりに開催。山下さんは、来場者と地元の人を守るために入場制限を行いながらの開催は大変だったと話します。

 「車で来た人は金沢大学に車を置いて、金沢大学発のシャトルバスに乗って来ていました。しかし、入場制限により金沢駅からのバス1系統だけとなってしまい、車では来られなくなってしまいました」。また、入場者数を減らすと出店する飲食のブースが集まりにくくなってしまうという問題も。来場者数が減ることで、来場者にサービスが提供しづらくなってしまったのです。

 費用面での課題もありました。今年は入場制限を設けたため、ライブ配信を実施。これまでも「のぞみ札」のお焚き上げなど、大勢で近づけない場面など一部は中継していたのですが、お祭り全般の中継になると費用が百数十万円必要で、無料公開するためにはお金を集めなければいけませんでした。

 さらに、「湯涌ぼんぼりまつり」では名前入りのぼんぼりで個人協賛を募り、それに加えて金沢市の企業からの法人協賛とグッズの売上げで開催費用をまかなっていました。「アニメで金もうけはしない」という考えのもと、温泉宿でアニメに関連したサービスは行っていませんでしたが、お祭りの開催費用のためのグッズを製作しています。

 「来場者数が減ると、売り上げも減ってしまいます。ネットショップでもグッズは販売していますが、お祭りでの売上と比べると大きな差がある。お祭りでないと、財布のひもは緩くならないんです」(山下さん)

 感染拡大防止のための中止や入場制限に加え、2018年(第8回)、2019年(第9回)は台風の影響で順延・規模縮小しています。気象条件や感染症などが開催のハードルとなることもありますが、この先、どのように「湯涌ぼんぼりまつり」を続けていくか、山下さんは次のように語ってくれました。

 「あくまで若い祭りなので開催されない期間があると忘れられてしまうと思います。だから、何らかの形で続けたい。しかし、水害からの復興を掲げて始まった祭りなので、台風などリスクがある中では開催すべきでないと思っています。コロナ禍の2020年2021年もやろうと思ったらやれたかもしれない。でも、もんもんとしたものを感じながらではなく、晴れ晴れとした中で開催したい。コロナ禍などがあっても、どういった形であれば開催できるかを考えています」

画像提供:湯涌温泉観光協会

(谷町邦子)

今年10月22日に開催された、第10回湯涌ぼんぼり祭り


(出典 news.nicovideo.jp)

花咲くいろは』(はなさくいろは)は、P.A.WORKS制作による日本のオリジナルテレビアニメ作品、および、これを原作としたメディアミックス作品。テレビアニメは2011年4月から9月まで放送された。公式略称は「花いろ」で、製作委員会名にもこの名が使われている。のちに制作された『サクラクエスト』から逆算し、P…
114キロバイト (15,262 語) - 2022年9月7日 (水) 13:20


(筆者コメント)
2011年9月のアニメ放送から現地で採用されて、開催された祭りなんて知りませんでした。もしかしたら祭りに慣れている現地の人も案外知らないかもしれませんね。

<このニュースへのネットの反応>

昔から存在している祭りだって第一回はあったわけで、祭りの理由もやっぱり神様に感謝とかなんだろうね。





True Tears の祭りもやってたなモデルの市で。いまはもうなさそうやけど


大洗でアンコウ踊りが定着する可能性もワンチャン・・・?


ぼんぼってるなあ


聖地巡礼とかやるオタクならファンとして作品に悪印象を抱くようなマナー違反はやらんよう気をつけるし観光客としてかなりいいいのかも


“俗に言う「オタク」に対するイメージは、マスコミの偏った報道もあり良くなかった” 言われてんなあマスコミ