『のび太と空の理想郷』は社会問題を扱うが、ドラえもんが避けたいと思う理由は何か?そして『ONE PIECE FILM RED』と通ずる点・・・


<記事内容>

 3月3日より「映画ドラえもん のび太と空の理想郷(ユートピア)」が公開されている。

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 まず、本作は後述する今日的かつ挑戦的なテーマに、果敢に取り組んでいる。前作「のび太の宇宙小戦争2021」もそうだったが、おそらくは作り手も想定していなかった、タイムリーな内容になったと言っていいだろう。

 現在、映画.comとFilmarksでは3.9点を記録するなど、観客からの評価も高い。劇中で提示されるメッセージが良い意味で響いたり、親子で話し合うきっかけになるのであればとても喜ばしいと思う。

 だが、申し訳ないが、個人的には悪い意味での危うさや居心地の悪さを伴う、問題のある作品との指摘もせざるを得ない。以下、中盤のどんでん返し的な展開に触れることになるが、ご容赦いただきたい。

※以下、結末のネタバレはありませんが、中盤のネタバレを含みます。また、「ONE PIECE FILM RED」の一部ネタバレにも触れています。

●夢をかなえてくれる「ドラえもん」でユートピアを描くという挑戦

 本作のあらすじは、空に浮かぶ謎の三日月型の島を見つけたのび太が、ドラえもんたちと共にその島を探しに出かけ、やがて誰もが「パーフェクト」になれる夢のような楽園「パラダピア」にたどり着くというもの。

 劇中で出木杉くんは「ムー大陸」や「竜宮城」など世界中にユートピアの逸話があり、それは完全に絵空事ではないのかもしれないという「可能性」を語っていたりもする。現実にある伝説や事象をベースにした冒険に旅立つというのは映画の「ドラえもん」の定番であるし、なかなかワクワクできる導入となっていた。

 そして、中盤では表向きには誰もがパーフェクトになれるというパラダピアで、実際は住民たちに洗脳が行われているという秘密が明らかになる。「光」を浴び続けたジャイアン、スネ夫、しずかがいつしか敬語を使うようになり、通り一辺倒の「良い子」になってしまう様はホラー的でゾッとさせられる。

 劇中のパラダピアは全体主義的な国家、あるいは日本でも問題となっているカルト宗教を連想させる。「表向きはユートピアとされていた場所が実はその逆のディストピアだった」というのはSFの定番の型ではあるし、2022年に大ヒットを記録した「ONE PIECE FILM RED」にも通じるポイントだった。

 そして、「パーフェクト至上主義」的な洗脳が行われる場に対して、人にはそれぞれ欠点があるように見えるが、それは決してダメなだけではない、「その人らしさ」でもあるのだというのが本作の主張だ。なるほど、それは個性や多様性が尊ばれる今の時代には大切なメッセージだ。

 堂山卓見監督は「SCREEN ONLINE」でのインタビュー記事で、脚本家の古沢良太はコロナ禍に入った直後に第一稿をあげており、子どもたちが遊びに出られないという当時の状況を強く意識していたことに触れている。そして、古沢は「今の子たちはいい子過ぎる気がする。周りの目を気にする時代になっていて、それは子どもも大人も同じ。それでいいんだろうか」という考えを持っていたとも語っていたそうだ。

 大人も子どもも、コロナ禍を経て将来に過剰にプレッシャーを感じやすくなっている。良い子になりすぎなくていい、パーフェクトを目指さなくてもいい。そんな世相を鑑みたこのメッセージは、とても志(こころざし)の高いものであることに、全く異論はない。未来道具で夢をかなえてくれる「ドラえもん」で、理想を現実にするユートピア(と見せかけたディストピア)を描くというのも、かなり挑戦的であり、支持をしたいアプローチだ。

●洗脳を否定する過程で別の洗脳っぽさが生まれてしまう

 だが、本作の分かりやすい欠点は「説明的すぎる」ことだ。後半は同じ場所で延々と種明かしや状況についての会話をする場面が多くなっていて、せっかくの空という舞台での活劇の面白さがスポイルされている。もう少しだけでも言葉に頼らず、飛行機に乗っての戦いなど、アニメの楽しさを追求して欲しかった。

 さらに問題なのは、メッセージもまた説明的かつ直接的すぎて、説教くさくなってしまっていることだ。おかげで、劇中での洗脳のほかに、また別の洗脳がされているような危うさを感じてしまうのである。

 例えば、ジャイアン、スネ夫、しずかの洗脳が解かれる場面はかなり性急で、それぞれがすぐに自分の欠点を個性であるかのように次々に演説したりする。さらに、ドラえもんがゲストキャラクターのソーニャに「君には心がある」「友達のために生まれてきた」などと説得をする。そして、しずかがとある出来事を「運命」だと主張する。

 これらがキャラクターの言動として不自然で居心地が悪く、メッセージのために置かれているように感じられ、個性や多様性についての主張が押し付けがましく思えてしまったのだ。そこは説明的なセリフに頼らず、それこそ「らしさ」を大切にした行動や、アニメとしての演出で語るべきところだろう。

 また、劇中では「そのままの自分でいい」というメッセージが掲げられている。これは2020年公開の「STAND BY ME ドラえもん2」に通ずる、努力や成長を否定しかねないものだ。過去のレビューでも指摘したが、「ドラえもん」は本来、のび太の成長を否定しない物語であり、その点でも齟齬を生む描写となっていた。一応、この「空の理想郷」の最後ののび太のセリフは「そのままでいいわけがない」ことを示すものであり、最低限のバランスは取れていたが……。

 そもそも、パーフェクトを目指すのも、悪いことではないのではないか。パラダピアは住民を洗脳しているのでもちろん間違ってはいるのだが、その場所が本当に救いになっており、そこに居続けたいと願う者がいるといった描写があっても良かったと思う。それで洗脳の恐ろしさをより際立たせることもできるし、一概にパーフェクトを否定しないことにもつなげられるのではないか。パーフェクトを否定する、個性や多様性を肯定する、その二項対立があまりに極端すぎると思うのだ。

 近年公開された児童向けのアニメ映画で、本作と同様に“表向きにはユートピアだが実はディストピア的な学びの場所”を舞台とした作品としては、「クレヨンしんちゃん 謎メキ!花の天カス学園」(2021年)がある。こちらは押し付けがましくない形で個性や多様性についてのメッセージを提示していただけに、「空の理想郷」のバランスを欠く描写が目についてしまった。

 また、メッセージが説明的かつ直接的すぎること以外でも、今回の脚本は感心しない部分が多かった。序盤の伏線がクライマックスに回収されるのは映画の「ドラえもん」らしくもあるが、今回は伏線のために置かれた伏線のような、あからさまな印象が否めない。終盤のとある感動を呼ぶようなシーンも唐突で、展開自体が今まで語られていたテーマとかけ離れているし、とあるロボットが登場するディズニーアニメ映画の雑なコピーに思えてしまった。

●元ネタっぽいエピソードもある?

 今回の「空の理想郷」は原作のないオリジナル作品ということだが、「ドラえもん」原作コミック26巻収録の「のび太の地底国」を読み比べると味わい深い。何しろのび太が0点(他にも低い点数)のテストを隠そうとして、「理想」を目指すのが物語の発端となっているので、下敷きにしている可能性はある。こちらはのび太が全体主義的な国家の独裁者となりしっぺ返しを受けるという話でもあり、今回の「空の理想郷」はのび太が同様の場所の住民となって苦悩する、ブーメランになって帰ってくるような話でもあるのだ。

 さらに、『モジャ公』における「天国よいとこ」のエピソードも、この「空の理想郷」に近いものがある。理想的で天国のように思えてきた場所が実は……と明かされる過程が下手なホラーよりも怖く、藤子・F・不二雄の大人向けSF短編集に近いダークな一編だったのだ。

 そういう意味では、「空の理想郷」は原作者である藤子・F・不二雄の「らしさ」も存分にあると言ってもいいだろう。古沢良太はパンフレットで、藤子・F・不二雄を尊敬しているからこそ恐れ多く一度はオファーを断ったこと、それでも「しっぽの先に触れたい」思いで挑戦したことなども語っている。そのプレッシャーとリスペクトも、確かに出来上がった作品から大いに感じられた。

 一方で古沢は、パンフレットで「僕の個性を出すことも考えていたんですが、実際に書き出すとそんなおこがましい思いは一切捨てざるを得なくなってしまいました」とも語っていた。しかし、前半に伏線をばらまいた後で“実はこうでした”と回収する様が不自然で、説明的なセリフが多すぎるあたりで、正直に言って悪い意味での個性も出てしまっていたようで、とてももったいなく思った。

 もう少しだけでも、メッセージが説教くさかったり押し付けがましくならないように工夫した、もっと見た人それぞれが主体的に考えられる内容にしてほしかったところだ。直接的すぎるメッセージは近年の映画の「ドラえもん」で気になっていたことだが、今回の「空の理想郷」ではなまじカルト宗教的な洗脳が描かれているために、完全にノイズになってしまったのは皮肉的だ。

 とはいえ「空の理想郷」は決して駄作ではない。最初に掲げた通り、今日的かつ挑戦的なテーマを取り上げ、広くファミリー層が見る映画のドラえもんで提示したことに、確かな意義がある。次回作では、テーマやメッセージが先行しすぎない、もっと素直に冒険やセンス・オブ・ワンダーを楽しめる内容を期待したい。

(ヒナタカ)

「映画ドラえもん のび太と空の理想郷」ポスタービジュアル (C)藤子プロ・小学館・テレビ朝日・シンエイ・ADK 2023
(出典 news.nicovideo.jp)


ドラえもん派生作品 > ドラえもん (2005年テレビアニメ)  > ドラえもん映画作品 > 映画ドラえもん のび太と空の理想郷 『映画ドラえもん のび太と空の理想郷』(えいがドラえもん のびそらユートピア)は、2023年3月3日に公開日本SFアニメーション映画。藤子・F・不二雄
31キロバイト (3,470 語) - 2023年3月11日 (土) 12:26


<筆者コメント>
この作品は、現代社会が抱える問題をテーマにしていることが多く、私たちにとって重要なメッセージを伝えてくれています。けれども、そのテーマを扱う上で子供たちに恐怖心を与えかねないシーンがあったり、ストーリー展開が危うい部分もあったりもするので賛否あり・・・。




<このニュースへのネットの反応>

あらゆる要素を映画に求めすぎているのではないかなぁ・・・。通常は、子供、親子連れを対象にした作品であれば、子供に伝わることが大事。せっかくだから一緒に見た親とか大人は、そういう感想を子供と分かち合えれば良いと思うよ。





F先生が存命だったら「君たちは大人になったんだから、いい加減ドラえもんから巣立ちなさい」って言いそう。


映画の批評はどうでもいいから、早く俺の所にドラえもん寄越せよ。ひみつ道具がすべて入った四次元ポケットでもいい。